過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndromeの頭文字をとって「IBS」と表します)は、お腹の痛みや調子が悪く、それと関連して便秘や下痢などのお通じの異常(排便回数や便の形の異常)が数か月以上続く状態のときに最も考えられる病気です。およそ10%程度の人がこの病気であるといわれている、よくある病気です。女性のほうが多く、年齢とともに減っていきます。
命に関わる病気ではありませんが、お腹の痛み、便秘・下痢、不安などの症状のために日常生活に支障をきたすことが少なくありません。
主な原因は?
IBSになる原因は、まだはっきりわかっていません。
細菌やウイルスによる感染性腸炎にかかった場合や、回復後にIBSになりやすいことが知られています。
原因究明のため、腸や脳の機能異常を起こす物質を見つける研究や遺伝子の研究などが行われています。
症状
- 症状としては便通異常(便秘・下痢・便秘下痢交替)
- 腹痛や腹部の不快感(なんとなく気持ちが悪い)
- ガス症状(腹鳴・腹部膨満・放屁・ゲップ)
などさまざまなものがあります。
診断法
甲状腺機能異常症などの内分泌疾患や糖尿病性神経障害、寄生虫疾患が疑われる場合は、血液検査、尿・便検査を行います。この際に炎症所見や貧血があれば器質的疾患が疑われるため、大腸内視鏡検査や大腸造影検査を行います。
また、症状に応じて、腹部超音波検査、腹部CT検査などを追加する場合があります。
治療法
生活習慣の調整と食事療法
規則正しい生活と十分な睡眠が推奨されます。刺激物摂取や、夜間の大量の食物摂取は避けることが望ましいです。さらに、特定食物で症状が起こりやすい場合は、その回避により症状が改善する場合がありますので、食生活を振り返ることが解決の鍵となることがあります。
薬物療法
ポリカルボフィルムカルシウム、プロバイオティクス、酸化マグネシウムなど腸管の内容物を調整する薬物やトリメブチンや臭化ブチルスコポラミンのような腸管の機能を調節する薬物が用います。
検査で異常がないのに、腹痛や下痢が続くのはなぜですか?
例えば、過敏性腸症候群(IBS)では、組織の異常や炎症などの明確な身体的な原因がないため、検査で異常が見つからない場合が多くあります。
IBSでは、腸の運動や感受性が異常になり、腸の収縮や緩和のバランスが乱れることがあり、腹痛や便通の変化を引き起こす要因となります。また、IBSでは腸の神経が過敏になることで、正常な刺激に対して異常な痛みや不快感を感じることがあります。
他にも、ストレス、不安、うつ病などの心理的な要因や、食事(特定の食品や飲み物)や生活習慣なども、症状に影響を与えます。
検査で異常が出ていないのに腹痛・下痢・便秘などが続く場合は、症状を緩和させるためにも、専門医の受診をご検討ください。
過敏性腸症候群 (IBS) なのですが、毎日の生活で気をつけることはありますか?
過敏性腸症候群(IBS)の症状を管理するために、以下のような点に気をつけることが重要です。
- 食事の管理
- 自身のトリガー食品(反応を引き起こす食品)や食べる量に注意しましょう。規則正しい食事時間を設け、食事の際はゆっくりと噛んでください。
- ストレスの管理
- ストレスはIBSの症状を悪化させることがあるため、リラクゼーションや深呼吸、瞑想、ヨガなどのストレス緩和法を取り入れることが有用です。また、十分な休息と睡眠を確保してください。
- 適度な運動
- 適度な運動は腸の運動性を改善し、便通を促進します。ただし、激しい運動や長時間の運動は症状を悪化させることがあるため、自身の体力と症状に合わせた適度な運動を心がけましょう。
- 規則的な生活リズム
- 規則的な生活リズムを作ることで、腸の正常な運動や消化をサポートします。食事、就寝時間、活動時間などを一定に保つことで、腸の機能を安定させることができます。
過敏性腸症候群(IBS)の便通異常には、どんなタイプがありますか?
IBSにおける便通異常の症状は、便秘がちになる方、下痢を起こしやすくなる方など、さまざまなタイプがありますが、「ブリストル便性状スケール(BSスコア)」という評価スケール(便の形状)を使用して分類します。
《ブリストル便性状スケール(BSスコア)》
- 硬くてコロコロした木の実のような便
- いくつかの塊が集まって形作られたソーセージ状の便
- 表面にヒビ割れがあるソーセージ状(バナナ状)の便
- 滑らかで軟らかなソーセージ状(バナナ状)の便
- 軟らかな半固形状の便
- 境界がはっきりしない不定形の便
- 水様便
便通異常は「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つのタイプに分けられます。
便秘型ではBSスコアの1〜2、下痢型では6〜7の便が多く、混合型では両タイプの便が同じような頻度で起こります。また分類不能型では3~5の便が多くなります。
4つのタイプでは症状も異なり、例えば、便秘型の方はストレスを感じると便秘がひどくなる一方、下痢型の方は緊張するとお腹が痛くなったり、下痢が生じたりします。混合型は下痢をしたり便秘をしたり、便通が変動することが特徴となります。
過敏性腸症候群(IBS)と診断されました。
食事の内容を見直すことは必要でしょうか?
IBSの治療において食事内容を見直すことは非常に重要で、症状の管理や改善に役立ちます。以下にIBSの治療における食事の重要性について説明します。
- トリガー食品の特定
- IBSの症状を悪化させる可能性のある食品や飲み物を特定しましょう。一般的なトリガー食品には、脂肪の多い食品、乳製品、カフェイン、アルコール、辛い食品、人工甘味料などがあります。自身の症状を注意深く観察し、どの食品が症状を引き起こすかを特定し、避けることが重要です。
- 食物繊維の摂取
- 食物繊維は腸の正常な運動や便通を促進する役割を果たします。ただし、一部の人には過剰な食物繊維の摂取が症状を悪化させることがありますので、自身の症状に合わせて適切な量の食物繊維を摂取しましょう。
- 規則正しい食事
- 規則正しく食事をすることや、食事を小分けにすることで、消化や腸の運動をサポートします。大量の食事や食べ過ぎを避け、適度な量の食事を摂るように心がけましょう。
食事内容の見直しは、自身の症状や体質に合わせた個別のアプローチを取ることが必要です。そのため、医師や栄養士の指導のもとで、食事プランを作成しましょう。
過敏性腸症候群(IBS)と炎症性腸疾患(IBD)の違いは何ですか?
過敏性腸症候群(IBS)と炎症性腸疾患(IBD)は、どちらも腸に関連する疾患ですが、その原因と症状は、以下のように異なります。
- 原因
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- 過敏性腸症候群(IBS):腸の運動機能の異常や腸内細菌の変化など、複数の要因に関連しています。具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、ストレスや食事、腸内細菌の変調などが関係しているとされています。
- 炎症性腸疾患(IBD):クローン病(CD:Crohn’s Disease)と潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)の2つの主な形態があります。これらの疾患は、免疫系の異常反応によって引き起こされる自己免疫疾患です。
- 炎症の有無
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- 過敏性腸症候群(IBS):腸の組織に炎症はありません。症状は、腸の運動の異常や感覚の変化に関連しています。
- 炎症性腸疾患(IBD):腸の組織に炎症が存在し、腸の壁の損傷、潰瘍、出血などの症状を引き起こします。
- 症状
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- 過敏性腸症候群(IBS):主な症状には、腹痛や腹部不快感、下痢または便秘、膨満感、ガスもれなどがあります。症状は一時的で、周期的に現れることが一般的です。
- 炎症性腸疾患(IBD):主な症状には、腹痛、下痢、便秘、血便、体重減少などがあります。症状は重篤になることがあり、全身症状(疲労感、発熱など)も見られることがあります。