鼠径ヘルニアとは?
まず、鼠径(そけい)とは、足の付け根(股関節の前面)を表し、ヘルニアとは、臓器もしくは組織が本来の位置から脱出した(はみ出した)状態を表します。
本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、鼠径部の筋膜(筋肉を包む膜)が弱くなって筋肉の隙間から皮膚の下に出てくる病気を「鼠径ヘルニア」といいます。俗に、「脱腸」とも呼ばれています。
発生部位
●外鼠径ヘルニア
鼠径靭帯の上で外側から出てくるヘルニア。鼠径ヘルニアでは一番多いタイプです。
●内鼠径ヘルニア
鼠径靭帯の上で、内側から出てくるヘルニア。高齢の男性に多くみられます。
●大腿ヘルニア
鼠径靭帯の下から出てくるヘルニア。出産を経験した女性に多くみられます。
主な原因は?
子供の場合は先天的(生まれつき)なものが原因として多く、大人の場合は加齢により筋膜が弱くなることが原因とされています。
なりやすい人は?
- 男女ともに起こる病気ですが、50~60歳ぐらいの男性に特に多くみられます。
お腹に力がかかる仕事、立ち仕事に従事する人に多くみられます。
便秘症・肥満症・前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦さんに多くみられます。
症状・放置しておくリスク
- 初期は、お腹に力のかかった時(長時間立つ、咳をする、重いものを持つなど)に、鼠径部に軟らかいふくらみを認めます。たいていは、手で押さえたり、横になったりすると、ふくらみは引っ込みます。
- 次第に鼠径部に何か出てくる感じが生じ、お腹の中から小腸などの臓器が脱出して不快感や痛みを伴ってきます。
- ふくらみが急に硬くなることや、押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり、吐いたりします。この状態を「嵌頓(かんとん)」といいます。
嵌頓を引き起こすと、強い痛みを生じるだけではなく、生命に関わる危険な状態になることもあります。嵌頓はいつ起こるか予測することが困難なため、鼠径ヘルニアを疑ったら早めに病院を受診してください。
検査・診断方法
くるめ病院では、まず診察を行い、その後に腹部単純CT画像検査を行います。
治療法
鼠径ヘルニアは自然に治ることはないため、治すためには手術が必要となります。
在来は自分自身の組織を直接縫い合わせることで補強する方法が行われていましたが、現在では再発率が低く、痛みも少ない人工補強材(ポリプロピレン製のメッシュ)を使用して行う手術が一般的となっています。
手術を行う際に大きな網目で優れた視認性をもたらします。在来製品と比較してより軽量になりました。(株式会社メニコン)
手術について
手術方法は大きく分けると、「お腹の外から治す方法」と「お腹の中から治す方法」があります。くるめ病院では、以下のとおり「クーゲル法・リヒテンシュタイン法」と「TAPP法」になります。
クーゲル法・リヒテンシュタイン法(鼠径部切開手術)
皮膚を切開して、人工補強材(ポリプロピレン製のメッシュ)を挿入します。
TAPP法(腹腔鏡下ヘルニア修復術)
お腹の中に腹腔鏡を挿入して、お腹の内側から弱くなった筋膜、筋肉に人工補強材(ポリプロピレン製のメッシュ)を当て補強する方法です。再発率が低く、術後からすぐに歩行が可能です。
くるめ病院では、術後の痛みが少なく社会復帰の早い、TAPP法(腹腔鏡下ヘルニア修復術)を2011年から導入し、現在では主な術式となっています。
※患者様の状態によっては、クーゲル法・リヒテンシュタイン法(鼠径部切開手術)を選択することもあります。
合併症について
手術後、麻酔の影響で頭痛が起こることがあります。状態により処置を行います。
予防法
重たいものを持ち上げるような動作を減らしましょう。
長時間、立ったままにならないようにしましょう。
便秘にならないようにしましょう。
違和感を覚えたら、早めに医師の診察を受けましょう。
鼠径ヘルニアは、自然に治りますか?
鼠径ヘルニア(脱腸)は、自然に治ることはありません。
また、薬などの治療法もないため、治すためには「手術」が必要となります。
鼠径ヘルニアのふくらみの大きさには個人差があり、ふくらみ部分を手で押したり、身体を横にしたりすることで、たいていは引っ込んでしまいます。そのため、「不安には思いながらも放置してしまう」ことが多く見受けられます。
ふくらみが急に硬くなることや、押さえても引っ込まなくなることがあり、「嵌頓(かんとん)」の状態となります。嵌頓を引き起こすと、強い痛みを生じるだけではなく、生命に関わる危険な状態になることもありますので、鼠径ヘルニアを疑ったら、まずは早めに病院を受診してください。
手術前にどういった検査が必要ですか?
鼠径ヘルニア手術では、全身麻酔が可能かどうかの判断のため、血液検査や心電図検査、呼吸機能検査などを行います。その際に追加検査が必要な場合は、事前にご説明させていただきます。
入院費はどれくらいかかりますか?
入院費は、入院日数によって異なりますので、詳細はお問い合わせください。
入院期間はどのくらいですか?
鼠径ヘルニア手術の場合、3〜7日の入院期間が必要となります。
患者様の体調や術後のリスク、持病などを考慮して、手術前後の入院日数が異なる場合がありますので、詳細は診察時にお尋ねください。
手術にかかる時間は?
鼠径ヘルニア手術では、およそ1〜1.5時間、プラス前後に麻酔のための時間がかかります。
食事が食べられない時間は?
手術前日の夜まで通常どおりの食事で、手術当日の朝から翌日の朝まで絶食となります。
手術翌日の昼には全粥食、夜には常食(普段日常生活で食べているような食事)をお召し上がりいただけます。
鼠径ヘルニアの手術後の痛みや違和感は?
基本的に鼠径部の違和感は、時間とともになくなっていきます。もし痛みが強くなる場合等は、診察時にお知らせください。
手術後の通院は必要ですか?
鼠径ヘルニア手術の場合、術後の経過観察のため、2週後・4週後・8週後にご来院ください。
もとの日常に戻れるまで、どのくらいかかりますか?
鼠径ヘルニア手術を行った際、術後すぐに腹圧のかかる動作を行うと、再発につながる場合があります。個人差はありますが、2〜4週間程度は静養を心がけてください。
○仕事
デスクワークなら退院後2~3日後から。力が必要な仕事は、2〜4週間後から。
○運動・スポーツ
痛みがない状態で散歩程度ならば、退院後翌日から。
ジムでのトレーニングやスポーツは、退院後2〜4週間後から。
○旅行・出張
何か症状があった際にすぐ受診していただけるよう、旅行や出張については、手術後1か月程度控えていただいております。