排便障害(便秘、便もれ、排便困難ほか) 

排便障害とは

排便障害の中には、便の通過・保持・排泄機能の3つに関する障害があり、代表的な症状に便秘・便漏れ・排便困難があげられます。例えば、いつの間にか便がもれて下着を汚してしまうと言った「便もれ(便失禁)」は、高齢の女性に多くみられます。その原因はほとんどが肛門の筋肉が弱くなるためですが、「他人に知れるのが恥ずかしい」、「目に見える異常ではない」といったことで、人知れず悩まれる方が多く、病院で相談し治療を受けることが少ない病気です。このような症状の方は、社会の高齢化とともに近年とみに増えてきており、個人の生活の質(QOL:Quality of Life)を高めるうえで、早めの相談をおすすめします。

くるめ病院では、便秘、便もれや排便困難に代表される排便障害に対して、大腸や肛門の働きの障害を詳細に調べ、正しい診断に基づいた適切な治療を目指しています。以下に排便障害をきたす疾患および当院での検査、治療法についてご紹介いたします。

排便障害をきたす疾患とは

発症する場所によって小腸・結腸に由来するもの、直腸に由来するもの、肛門に由来するもの、の3つに分けられます。

①小腸・結腸に由来する排便障害

・慢性便秘
排便が順調に行われず、4〜5日以上排便がない場合や、毎日排便があっても量が少なく、腹痛や腹部のはり、残便感を伴う場合を指します。しかし、個人差があり、苦痛がなければ排便異常とは言えません。食物繊維の少ない食事や運動不足、精神的ストレスといった生活習慣そのものが、腸管の緊張や運動低下といった異常を招き、正常な排便を妨げる要因ともなっています。

・過敏性腸症候群(IBS)
ストレスによる症状として排便障害をきたしやすい方がいます。ストレスが神経(自律神経)を介して腸に伝わり、腸管運動が抑制されたり亢進したりします。症状は便通異常、腹痛や腹部の不快感、ガス症状(腹が鳴る、腹がはる、放屁、ゲップ)、便の形の異常(コロコロ便、硬い便、逆に細い便、軟らか過ぎる便、水様便)などで、便秘型、下痢型、便秘・下痢交代型、ガス型、粘液型の5つに分けられます。

②直腸に由来する排便障害

直腸脱
直腸は骨盤内の線維によって周囲に固定されていますが、これが脆弱し伸展すると、直腸が肛門の外に脱出してくるようになります。放置しておくと肛門を締める筋肉(括約筋)が緩んでしまい力まないと便が出ない、力むと直腸脱が悪化するという悪循環がおこります。高齢の女性に増えている病気です。

直腸膣壁弛緩症(レクトシール)
もともと直腸と膣との間の壁は薄いのですが、出産や加齢に伴い、これがさらに薄くなり、直腸が膣の方へ袋状になって突き出てくるものです。便秘症の方が排便しようと力んでも、この袋にたまってしまい便が出にくくなります。

・ヒルシュスプルング病
乳児の時期にがんこな便秘を起こす先天性ヒルシュスプルング病が代表的です。この病気の子供には生まれつき直腸を動かす神経がありません。そのため、直腸を便が通過できず、上の方にたまって結腸が拡がり巨大結腸となります。程度が軽い症例は、成人になって自覚されることもあります。また、パーキンソン病や薬の副作用などで成人にも同様の症状を呈するものがあり、二次性ヒルシュスプルング病と呼ばれます。

③肛門疾患に由来する排便障害
ほとんどの肛門疾患は排便障害を伴います。

痔核
痔の中で最も多いのは俗に言う「いぼ痔」(痔核)です。肛門付近の静脈の中に血液が停滞すると、だんだんふくらんできて塊状になってしまいます。大きくなると肛門の外に脱出するようになり,脱肛と呼ばれる状態となり、肛門をふさいで便が出にくくなります。

裂肛
肛門の出口(肛門上皮)が裂けて傷ができたもので、俗に「切れ痔」「裂け痔」とよばれます。強い痛みと出血を伴い、治癒せず切れたり治ったりを繰り返すと瘢痕と言う固い組織ができて肛門を狭くします。これを肛門狭窄といい、治療しないと出血や痛みを伴ってますます肛門が狭くなります。

痔瘻
肛門のまわりにあいた穴から膿が出ます。俗に「穴痔」ともいわれます。肛門の内から外へと瘻管(膿の管)ができて、痛みや腫れ、排膿を伴います。痔瘻は肛門の近くに出来る膿の管で深く広く、複雑になるほど肛門を締める括約筋が固くなったり、肛門が狭くなったり、直腸が動きにくくなったりして排便障害を起こすようになります。

④その他の原因によるもの

・外傷
外傷により肛門括約筋を損傷したり、神経を傷つけたりすることで排便障害が生じることがあります。仕事中や家庭内で生じるもの、スポーツによるものなど種々ありますが、最近は交通事故によるものもあります。

・出産
出産によって括約筋が切れたり、薄くなったりして弱るため、便が漏れる場合があります。また、母親の骨盤と胎児の頭との間で陰部神経が圧迫されて傷つき、神経が鈍って便が漏れ易くなることもあります。症状はいずれも括約不全と同様ですが、後者は感覚障害を伴いやすく、しまりの悪さとしびれが併存することもあります。

括約不全
肛門は括約筋の働きによって、普段は便やガスがもれないように締っており、排便やガスを出す際には必要に応じて開くようになっています。この働きがうまくいかなくなった状態が括約不全です。例えば直腸脱によって括約筋が薄くなり、括約筋の力が弱まると、便もれ、ガスもれを生じます。一方、外傷、出産、痔瘻やホワイトヘッド術後後遺症では、括約筋が切れることによって同様の症状が生じます。

・高齢者の括約不全
近年、高齢化により括約不全で困っておられる方が著しく増加しています。当院の研究によりますと、男女ともに70歳をすぎると急に括約筋の力が低下します。若い人では、括約筋の力が低下していても症状は表に現れないのですが、70歳を過ぎると括約不全の症状が現れてくるのです。したがって青壮年期に括約筋の力を低下させる原因をつくることは、極力避けなければなりません。

・骨盤内臓器下垂
骨盤内の臓器、例えば子宮や膀胱、直腸、小腸などの臓器が下がり、外に脱出するようになります。悪化すると、これらの臓器が全て脱出することもあります。こういった骨盤の中の諸臓器の下垂は、主に骨盤の下面に張ってこれらを支えている骨盤底筋(肛門挙筋)のたるみによって生じます。

・肛門挙筋症候群
肛門の奥がキューっと差しこむような強い鈍痛、直腸の下部が勝手にギュッと絞り込まれるように痛む、締め付けられる鈍い痛みなどの肛門の筋肉が過剰に収縮することで起こる痛みです。原因はわかっておらず、放置すると括約筋が継続して収縮し、厚くなり症状が増悪してきます。

・仙骨神経症候群
骨盤内臓器の働きには仙骨神経や骨盤内臓神経が重要な役割を果たしています。仙骨神経に障害があれば、肛門挙筋が緩み骨盤底が下降します。それと共に骨盤内の諸臓器も下垂し仙骨神経が引き伸ばされ神経の働きがさらに悪くなります。また、仙骨神経によって痛み、しびれといった知覚障害も現れます。これらの神経障害の主な症状として、直腸肛門痛・括約筋不全・排便障害・腹部症状に、腰痛が組み合わさることも多いようです。

排便障害の検査

排便障害を的確に治すには、症状を正確に把握することが不可欠です。そのためには、いくつかの検査を組み合わせて行い、その結果を総合的に分析して診断を下すことになります。以下にその主なものをご紹介します

①肛門内圧検査
肛門の締まり具合や絞める力を調べます。直腸肛門内に圧センサーを挿入し、肛門に力を入れない時(最大安静圧)と力一杯肛門を絞めた時(最大随意圧)の肛門の締る強さを判定します。

②直腸感覚検査
排便反射の神経の働きが、正常であるかを調べます。直腸内にバルーンを挿入し、少しずつ膨らませながら便意を感じた時と便意を我慢できなくなった時のバルーンの大きさ(容量)を測定します。

③排便造影検査(ディフェコグラフィー)
排便時の直腸と肛門の動きや形態の変化をレントゲン(X線)で調べます。肛門から便に見立てた造影剤を直腸内に注入し、透視台上のポータブル便器の上で、安静時、肛門引き締め時、排便時のX線撮影を側面から行い、同時にビデオに記録します。

④大腸通過時間測定造影検査
食物が便となって排泄されるまでの大腸内での通過の速さやその時の大腸の形や動きを調べます。検査3日前〜前日の朝食前に指定されたカプセル(X線不透過マーカー)を内服していただき、検査当日朝に腹部X線撮影を行います。マーカーの通過および停滞状況を把握します。
いろいろと推定される病態に合わせ、以上の検査およびその他十数種類の検査を組み合わせて行います。

排便障害の治療方法

最後に治療方法についてですが、上記のような検査を組み合わせて行い、病態を正確に判断することによって、より効果的に治療を行うことが出来ます。以下に主な治療法を紹介し、中でも当院で力を入れて行っている「バイオフィードバック療法」についてご説明します。

①バイオフィードバック療法(機能回復訓練)
括約筋のバイオフィードバック療法とは、括約筋をどのように動かせばよいかを自分自身で理解してもらう有効な訓練法です。括約筋不全の方が対象になります。肛門からバルーンやセンサーを挿入し、肛門をしめたり、ゆるめたり、りきんだりしてもらって、その数値を本人と医師または検査技師が一緒になってモニターで確認しながら訓練していきます。

②保存療法
病態を十分理解していただいたうえで、基本的な生活療法、食事療法、排便指導を行います。心身医学的な指導としては、ケースワーク・各種心理検査・心理療法などがあります。

③薬物療法
便の硬さの調節、腸管の動きの調節、過剰な腸管の動きの抑制などを行います。症状によっては精神安定剤または抗うつ剤を組み合わせると効果が高まります。

④理学療法
脊椎・陰部神経障害に対して近赤外線療法(スーパーライザー)などの温熱療法には、効果が期待できます。神経ブロックを用いて脊髄レベルに波及した痛みを抑え疼痛部分の拡大を抑えます。

⑤手術療法
疾患によって適応は異なりますが、肛門疾患をはじめ直腸脱や骨盤内臓脱などに手術を行います。括約不全では括約筋形成術を行いますが、部分的な括約筋の断裂では断端を縫合し、薄くなった部分を厚くしたりします。当院の場合は、大殿筋による括約筋形成(デベサ法)などを行い、術後にバイオフィードバック療法を加えて、筋力強化を計っています。手術治療後に上記治療を組み合わせて行うことがあります。