便失禁について
便が漏れることを「便失禁」と言います。
便失禁がおこる状態を大別すると
①溜められないためにもれる(切迫性便失禁)
②溜まりすぎて出せないために漏れる(溢流性便失禁)
③排便動作ができないために漏れる(機能性便失禁)、
④混合型
といったことが考えられます。
便失禁の原因
①切迫性便失禁
切迫性便失禁とは、急に便意を感じても我慢できずに便が漏れてしまう状態です。便を溜められない原因としては下痢便があげられます。下痢があると腸の刺激が強く、我慢できないだけでなく、水っぽいので漏れやすい状態にあります。また、骨盤底筋が損傷すると、肛門がうまく締まらない、あるいは直腸・肛門角(直腸と肛門の角度)が開大し、便が漏れやすくなっています。この程度が早い時期では骨盤底筋訓練やバイオフィードバック療法を行うことで便もれは改善します。
②溢流性便失禁
溢流性便失禁とは便が溜まりすぎて、便が溢れ出てくる状態です。神経障害のため便意が分からない、また神経の障害がなくても習慣的に便意を我慢していると、便が直腸におりてきても分からなくなります(便意がない)。その結果、詰まった便が入浴時にポッカリ浮き出てきたりします。この場合の対応は、直腸の感覚域値を調べ、その原因を明らかにした上での治療となります。排便周期を確認し、便が漏れる前に出すことができれば漏れを防ぐことができます。そして、バルーンを用いた直腸の感覚域値を正常にもどし、便の排出を訓練することでうまく排便できるようになります。
③機能性便失禁
機能性便失禁とは、排便動作がうまくいかない、運動機能低下や認知症などにより判断力の低下によって失禁がおこる状態です。
とくに初回出産の人の肛門を超音波検査で調べると約30%に肛門括約筋の損傷が認められ、また約10%の人に便失禁の症状がみとめられます。大部分の方は3~6ヶ月で回復しますが、年をとってからの便もれの原因となることもあります。このような人にはバイオフィードバック療法などの肛門括約筋訓練プログラムで肛門括約筋を鍛え直せば、症状が軽減、消失する可能性は十分あります。経肛門的に超音波検査を行って、肛門の変形(肛門括約筋の損傷の有無)を評価します。損傷や基礎疾患がなくても内肛門括約筋が年齢に比べて薄い場合も機能不全をきたして漏れることもあります。次に、肛門内圧検査や筋電図検査で肛門の締まり具合をみます。そして直腸に風船を挿入して、直腸の感覚を調べる直腸感覚域検査が一般に行われ、便失禁の原因を突き止めます。
このように直腸や肛門の働きを理解し、便もれの病態に合った治療法を選択することが重要です。これからの高齢社会に向けて、高齢者の便失禁が多くなることには間違いありませんが、食事や家での排泄方法をもう一度確認し、ホームヘルパーや訪問看護師と協力して、排便方法を考えることも必要です。